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書評: ローマ亡き後の地中海世界1~4: 海賊、そして海軍 (新潮文庫)

ローマ亡き後の地中海世界1: 海賊、そして海軍 (新潮文庫)
ローマ亡き後の地中海世界1: 海賊、そして海軍 (新潮文庫) 塩野 七生

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タイトル通りだが、ローマ帝国滅亡後、イスラムの勃興からレパントの海戦で「西欧」がオスマントルコに勝利し、西欧が地中海の制海権を回復するまでのおよそ10世紀の期間を「西欧キリスト教世界(カトリック)の視点」から俯瞰した大著である。山川世界史の教科書だと大変わかりにくい中世ヨーロッパとイスラムの関係がよくわかるし、それが今のイラク戦争やテロリズム、ISISにもつながっていることがよくわかるので、多くの人に読んでほしい。ただ様々なクライマックスについては同著者による既刊があり、本書ではあまり詳しく触れられてはいないので、それらについては著者の各著書に進まれるのが良いと思う。

ローマ帝国の終焉、つまりパクスロマーナの終焉は、地中海を安全な「湖面」から、文化と国家が衝突し、海賊が荒れ狂う荒海に戻した。地中海がカトリックとイスラムの最前線となったのだ。そして中世を通して、十字軍があったにもかかわらず、西欧の地中海沿岸はイスラムの海賊による草刈り場となり、沿岸部の略奪、住人の奴隷化、領地の失地が10世紀にわたり続くといった西欧にとっては屈辱的な時代を過ごすことになる。逆に見ればイスラム、それを引き継いだオスマントルコが世界を征服しつつあったイスラムの黄金期でもあった。

10世紀、1000年にわたる屈辱を過ごした西欧が巻き返せるようになるのが、16世紀になってからだが、その為に二つの要因が必要だった、一つにはルネサンスによる文化的な巻き返し、イスラムに比べて送れた西欧からの文化的巻き返しが必要だった。ルネサンスは芸術だけではなく、貨幣経済の回復、科学、工学の回復と発展、優れた行政官僚制の回復、それらの複合による経済活動、経済システムの回復、政体の中央集権化(絶対王政)をもたらし、オスマントルコに対抗しうる体制が出来たことが一つ、新大陸の発見に伴う西欧の急激な経済発展により、経済力でもイスラムに対抗できるようになったことが二つ目の要因だ。16世紀になって初めて西欧がイスラムに対する有利を回復するようになったのだ。そして、本書ではルネサンスの要因がこの西欧とイスラムとの抗争自体によってもたらされたことも書かれている。

西欧が地中海とイスラムに対する最終的な「解決」を行うにはレパントの海戦後200年後、フランス、イギリスによる北アフリカの植民地化とオスマントルコの衰退による19世紀まで待たねばならなかった。ただ、それ以降の地中海は西欧同士の抗争の場であり、パクスブリタニカと言われた時代でも穏やかな海ではなかった。再び表面上とはいえ穏やかな海となるのはパクスアメリカ、冷戦という不思議な均衡状態の間だけである。その均衡状態が解けた今再び、西欧とイスラムの勢力争いの海となりつつあるように見える。

ISISなんてまさにイスラムの海賊そのものみたいだ。

今本書が文庫になったタイミングに驚くけれど、何故「西欧」のISISに関する報道の方向や、西欧各国の反応について、偏向や過激だと思われる人は本書を読んでみると良いのかもしれない。1000年にわたる屈辱と恐怖は深く深く文化にしみこんで抜けるものでは無い。

もっともその恐怖はイスラムだけでなく、「モンゴル」にも向いているわけだけど。

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